老母の握力

介護の入り口。老母(ローボ)と老娘(ロームス)のつれづれ。

Hapoさん(母)の引越し、当日。

Hapoさん、いよいよ引越しです。

 

食事以外はひたすらベッドに横になっているHapoさん。

最後の抵抗なのか、いつものことなのか。

 

「何時に出かけるの?」

と何度も聞いてくるのは、いつものこと。

 

12時45分。

 

出かけなきゃと着替え始めるHapoさん。

 

私の準備がまだ整ってませーん、 こちらが慌てる。

 

車に乗るときは、昨日よりスムーズになっている。

 

施設までの移動時間、ずーっと、口をへの字にしたまま。

 

車窓からの景色が見えているのか、いないのか。

 

ほどなく施設に着くと、介護職員やケアマネさんがお出迎え。

 

愛想よく「これからよろしくお願いします。」と挨拶しているHapoさん。

 

その笑顔は、ひきつっている。

 

部屋の準備ができるまで共有スペースの椅子に座って待つ。

 

ベッドの支度が出来たので「横になる?」と聞いたら、

 

「皆さんがいるのに寝るのは失礼でしょう。しばらく座っています。」

 

ずいぶん がんばっているな。

 

これからの生活のこと、一週間のスケジュールなどの説明を聞いている。

 

施設側の人が5人もいて、誰が誰やらわからなかったし、

何を言われているのかチンプンカンプンだったって、後から言ってました。

 

いきなり、あれこれ言われてもね、わからないよね。

 

その後、私が各種契約書類への記入があったので、Hapoさんは自室へ退場。

その間、夫がHapoさんを見守ってくれている。

部屋のドアは開いたままなので、会話がなんとなく聞こえてくる。

Hapoさんが自分から何か話している。

義理の中だから気を遣っているのかな?と思いながら、

私も職員のかた5人を相手に契約を交わしていく。

 

施設への入居契約に始まり、居宅介護サービス等を利用する契約など全部で7種類の契約書にサイン、捺印を繰り返す。

途中で母の名前を書くのか、自分の名前かわからなくなってくる。

 

この事務作業中にちょっと変だなと思うことが発覚。

それは長くなるので別に書くことにしましょう。

 

契約に小一時間かかり、ようやくHapoさんの部屋へ行くと、

目をつぶっているのか、眠っているのかな?と思ってのぞき込むと

「寝てないよ、今、空を見ていたの。」と窓から見える空を指さした。

 

住宅地にある施設だから、

立って窓を見ると道を挟んだ隣の家の壁しか見えないと思っていたら、

ベッドに横になると大きな空が見えている。

 

いつも自分の家にいるときもベッドに横になり

窓から見える隣家の樹木が風に揺れるのを見ているだけで幸せと

言っていたHapoさん。

 

隣の壁しか見えないなんて寂しいなーと思っていたら、

「空が見えてよかったわ。」という。

 

ただそれだけのことを言われただけなのに、私は涙をこらえるのに必死だった。

 

目線が変わると、景色も変わる。

 

しばらく空を眺めてから、

「明日も仕事でしょう。もう遅くなるから帰りなさい。」

と心配声で言う。

 

お互い納得した上での転居だったのか、

充分な確信が得られないまま今日に至った。

 

この気持ちはどうしようもないことだから、仕方がないこと なの?

その疑問がぐるぐると回りだす。

 

環境が変われば、生活が変わる。

 

「窓から空が見えてよかったわ。」と言ってくれたように、

 

「ここに来てよかったわ。」と

 

思ってくれることを願うばかり。

 

まだはじまったばかり。

 

ぼちぼち、ぼちぼちいきましょう。

 

大丈夫、心配するな なんとかなる。