庄野潤三作品には子供や孫たちからの手紙がたびたび登場します。
もちろん潤三氏と千寿子夫人も同じように手紙を書いていました。
「誕生日のアップルパイ」は千寿子夫人が長女・夏子さんへ宛てた842通のうちの130通を選んで編まれた本です。 神奈川近代文学館での庄野潤三展に合わせて先行発売されました。
タイトルのアップルパイは夏子さんが母・千寿子さんのために焼いたもの。 いつもいつも美味しくてそのたびに喜びのお礼を書いているお母くん(家族は父をお父くん、母をお母くんと呼んでいた)です。
夏子ベーカリーのアップルパイは
どこの国のアップルパイよりおいしい、
世界一のパイよ。
どんなにおいしいパイなんだろう。
それなのに、本の最初に紹介されているのは「レモンパイ」へのお礼の手紙です。いくらでも欲しくなるおいしさだったとお父くんも言っていました。
はて? アップルパイの間違いでは? と思うものの日付は3月20日です。 お誕生月ではなかったのです。 夏子さんは誕生日に限らず、ケーキを焼いて「山の上の家(実家)」へ幾度となく届けているのです。
千寿子さんの文面が最初は堅苦しい感じだったのが夏子さんが足柄に転居したあたりから、より一層ユーモアにあふれるものになっています。 それは夏子さんからの手紙も同じです。
結びの自分の名も「お母くんより」からどんどん変わっていって
・ザ ハッピネスマザー
・ミセスハッピネス・メカブ婦人
・丑年のマーヤのお母さん
などなど。
あんまり書くとこれから読む人の楽しみがなくなってしまいますね。
千寿子夫人は空の上で
恥ずかしがっていらっしゃるかもしれないけれど
こんなに素敵な手紙を読ませて頂いて
「ありがとうございます」とお伝えしたい。
帰りの電車の中で読み始めてその内容にふふふと笑ってばかり。
読んで笑顔になれる手紙はやっぱりいいですね。
そして帰宅後、本の裏を見たら、なんだかシミがあるように見えます。(丸く囲ったあたり)
あら、バッグの中で何かの色が移ってしまったのかしら?と手に取ると
なんと、すてきなサプライズ!
丑年の千寿子さんがサイン代わりに描いていた牛さんイラストとメッセージが書かれていました。 (5/13はアップルパイの日なんですよ)
こんなところが庄野家のユーモアと愛なんですよね。