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ちひろ美術館東京へ ~ 装いの記憶と、しなやかな「心の翼」

西武新宿線上井草駅に降り立つと、ちひろ美術館への道案内看板が迎えてくれました。描かれた可愛い子どもたちの後を歩いているような、あたたかい気持ちになります。住宅街の中にも丁寧に標識があるので、迷う心配もありません。

 

ふと見ると、数十年前に訪れた時には銭湯があった場所が、今は空き地になっていました。次に来る頃には、ここにも新しい住宅が並んでいるのかもしれませんね。

 

そんな移りゆく景色の中で、美術館のレンガ色の建物だけは、昔と変わらずそこにありました。

 

常設展示では、ちひろさんのアトリエが再現されています。以前来た時には気づかなかったのですが、よく見ると窓の桟(さん)や本棚の上に、全国の郷土玩具が飾られていました。ワタシも郷土玩具が好きで集めているので、「ちひろさんも同じものが好きだったのかしら」と思うと、なんだか嬉しくなりました。もしかしたら、民藝にも興味を持たれていたのかもしれません。

 

また、かつての自邸の図面も展示されていました。最初は家族3人で住む小さな平屋だったのが、お義母様や実母、そしてお手伝いさんも加わり、家族構成に合わせてリフォームや増築を繰り返していった様子が伺えます。

実母とは、一時わだかまりがあったようですが、後にそれも解消して共に暮らし、一緒にヨーロッパ旅行へ行くほどになったそうです。晩年はご家族で幸せに過ごされたのだと思うと、どこかホッとした気持ちになりました。

 

今回の企画展「装いの翼」では、3人の女性の「装い」に焦点を当て、愛用の服や装飾品が展示されています。

 

写真の中の彼女たちがおしゃれなのは、戦前の豊かな暮らしの証でもあります。特に印象的だったのは、ちひろさん手作りのワンピース。先日観た映画でも触れられていた一着です。胸元にギャザーがあしらわれた可愛らしいデザインですが、当時の写真の中のちひろさんは表情が硬く、右手で左手を隠すように握っています。それは、最初の結婚への抵抗として、結婚指輪を隠していた姿なのだそうです。

 

映画で知った後だったこともあり、実物を前にして「可愛い」だけでは終われない、胸が締め付けられるような気持になりました。それでも、この一着を大切に手元に残していたのは、いつしか幸せな思い出が上書きされていたからでしょうか。そうであってほしいと願わずにはいられません。

 

展示の中で、1972年にちひろさんが語ったこんな言葉が紹介されていました。

 

「親からちゃんと愛されているのに、親たちの小さな欠点が見えてゆるせなかったことがありました。~(中略)~大人というものはどんなに苦労が多くても、自分の方から人を愛していける人間になることなんだと思います。」

 

当たり前のようでいて、なかなか難しい「自分の方から」という姿勢。過去の葛藤を乗り越え、しなやかに生きた彼女の言葉を、ワタシも大切に忘れないようにしたいと思いました。

 

今回の展覧会は、単なるファッションの展示ではなく、人生を羽ばたかせるための「心の翼」を見せていただいたような気がします。