編めば編むほどわたしはわたしになっていった 三國万里子/著 を読みました。
タイトルの通り、一本の糸を編むように、三國さん自身の過去と現在を丁寧に編み上げたエッセイでした。人気ニットデザイナーとして知られる著者の、その卓越した手仕事の裏側にある「生きづらさ」や「葛藤」が、驚くほど繊細に描かれている点に強く惹かれました。この本は、単に編み物の技術や歴史を語るものではなく、内向的で不器用な一人の女性が、手仕事を通じて自分自身という居場所を見つけるまでの静かな自己探求の物語のようでした。
間違えてもほどいてやり直せるという編み物が、「人生もまた、やり直すことが可能である」という静かなメッセージを与えてくれたようです。
文章を書くことも編み物も、ごちゃまぜな思考や感情を、言葉や糸という素材を選び、時間をかけて「形」にしていく作業であり、その過程で「自分」という輪郭がはっきりとしていくようです。
このエッセイの魅力は、自伝的な語りだけでなく、家族や日常の何気ない光景を切り取る温かいまなざしにもありました。その中でも特にワタシの心に残ったのは、三國さんが仕事に没頭する忙しい時期に、夫君が日用品の買い出しをしてくれたエピソードです。
お礼を伝えた三國さんに、夫君は「それは僕じゃあなくて小人がやってくれたんだよ」と答え、自分の労力を誇るのではなく、むしろそれを「魔法」や「愛らしい誰かの仕業」として、優しく昇華させるこの言葉に深く胸を打たれました。地道で目立たない家事や生活の維持は、ニットの裏目のように見過ごされがちであるけれど、この「小人の手による目に見えない優しさの積み重ね」こそが、二人の生活という名の編地を温かく、丈夫なものにしているようです。
三國さんが、一本の糸を丁寧に編み進めることで自己を見つけたように、このエッセイは、日常に潜む小さな善意や、家族の機微を見過ごさない温かいまなざしが、いかに人生を豊かに彩るかを教えてくれました。
焦らず、自分のペースで、
日々の努力や経験という「編み目」を
一つ一つ積み重ねていきたい。
そして、
その地道な積み重ねこそが、
未来のワタシを形作る確かな証になるのかなと
感じた読書でした。