東北の栗駒山の裾を2時間ほど入り込んだところで農業や酪農をしていた頃のお話が好きです。農業や雪に埋もれる大変さの中にもささやかな幸せがあることを感じる文章があふれています。その頃のことを題材にして書かれた「山のトムさん」も好きです。
自分が生まれる前の事柄が書かれているのに、なぜか懐かしく感じるのは母から聞かされたその頃の生活が記憶のなかで交差するからかもしれません。
東京・荻窪に住んでいるころのことで「メダカと金魚」について書かれています。
戦争中にメダカを飼っていたと、友達に言われて、ああそんなこともあったなぁと深い感慨にひたった とあります。
メダカや金魚に対してとくに趣味を持っていたわけではないけれど、家に居るのだから家族のようには思っていた。 そしてひまさえあれば金魚やメダカのそばにいってしゃがみこむようになった。 ガラス瓶にメダカの卵をいれて毎日観察した。のびのびと思うがままに生きているメダカを見ていた。
同じことをしている人がここにいたんだなぁと 感慨にひたるワタシがいます。
「宮様の手」「小さな丸まげ」に書かれたお母様のこともじわりと心に響きます。
「家と庭と犬とねこ」は、おしかけてきたり、期せずして手に入ったものたち。
人生はわからない、と言いながら楽しんでおられるお姿を感じる作品たち。
よく働いてきた正直な手をもつ石井桃子さんの正直なあれこれが詰まっています。